男装の少女マンガ読書会 〜『少女マンガジェンダー表象論 <男装の少女>の造形とアイデンティティ』押山美知子・著 より〜
2020年12月13日(日)
『少女マンガジェンダー表象論 <男装の少女>の造形とアイデンティティ』押山美知子・著 を読んでの読書会
参加者 全12名(オンオフ総計)/ 15:00-19:00
もくじ
<まえがき>
② 今回の読書会の参加理由 ー男装の少女に興味を持ったのはなぜかー 数人抜粋
<超☆概要編>
① 少女マンガは外見的な男らしさ・女らしさをどのようなパーツで描いてきた?
② 少女マンガの歴史の中で、内面的な男らしさ・女らしさはどう定義されてきた?
<その他編>
■ 少女マンガに、マジで粗野で汚くて取り柄のない人間は描かれないよね という話題
<おわりに>
<まえがき>
① 会について
人生研究会は「できるだけ楽しく人生を送ろう!」という趣旨で @syuhomi が運営しています。
その上で知りたいこと、気になることなどをみんなで楽しくおしゃべり、共有、勉強できたらいいなと思っています。
そのため今回は、カルチャーとしてのマンガ、服飾、社会的役割としての性別(ジェンダー)、フェチなどの興味から男装の少女マンガの研究書をテーマに読書会を行いました。
課題図書は『少女マンガジェンダー表象論 <男装の少女>の造形とアイデンティティ』押山美知子・著 です。
参加できなかった方、人生研究会に所属していない方にも内容を共有できたらいいなと思うので以下内容をまとめていきます。(せっかく開いたので!)
スクロールはちょっと長いですが箇条書きも多いですし、もくじからリンク飛べるので適宜使用してください。
お読みくださいましてありがとうございます(^^)
② 今回の読書会の参加理由 ー男装の少女に興味を持ったのはなぜかー 数人抜粋
● どんな外見、記号が性別を表す(意識させる)のか興味があった。人間はどうしても服装やメイク、声など外見で判断する / されることが多い。自分自身が服を着るときにそれを意識しすぎて何を着れば良いかわからなくなり困っている。だから適切にどのような記号が何を表すのか知っておきたかった。自分似合う服は何なのか、そのヒントになればと思った。
● 小学生の女の子と文通していたときに「中学に入ったらスカートはかされるのが嫌だ」という話を聞き、中学入学時点で男装・女装させられてしまうと感じた。
ときメモの伊集院レイなど、服装は記号でしかないのに意味合いが付与されるのが面白いと感じている。
● 女性は剣を与えられたり魔法の力を与えられたりして男装なり魔法少女なりに変身することが多い。しかし『さらざんまい』というアニメなのだが男性は河童に尻子玉を抜かれて変身する。
異性装とか変身においてなんか男女差があるような気がして、また異性装や変身は規定のレッテルを抜け出す有効な手段なのではという観点から、読書会内容が気になった。
<超☆概要編>
① 少女マンガは外見的な男らしさ・女らしさをどのようなパーツで描いてきた?
手塚治虫前 : 男女ともにほぼ同じ顔(単純な点や丸の目鼻口、ほぼ同じ顔の輪郭)
手塚治虫~ :
眉の太さ・形・角度、睫毛の量・長さ、目が丸か・切長か、瞳の大きさ、瞳のハイライト、鼻の太さ、唇の大きさ、顔の長さ、服装の表象記号(リボン・ハートの有無等)の描き分け
☆ 手塚の場合、男装の少女であっても顔や装飾品の造形パーツは他の女性キャラクターと同型
☆ 『リボンの騎士』(1953-56)では、主人公の男装の少女サファイヤの目隠しが描かれたり消えたりする。
懐かしい笛の音を聞いて戦闘中に力が抜け、圧倒されるシーンでは突然目隠しが消える。笛の音が止み力を取り戻すと突如目隠しの描写が復活する。
→内面の表現において最も重視されるパーツは「目」ではないか(この場合は「優しく淑やか」な女性性 *②で後述)
『ベルサイユのばら』(1972-73) :
男女の描き分けは基本的に手塚を引き継ぐ。
しかし男装の少女(オスカル)のみ男女の入り混じった特徴的な造形を持つ。
眉ー男性と同じ角度、女性と同じ細さ
睫毛ー女性と同じ長さ・量
目の形ー男性と同じ切長、三白眼ぎみの形
服装ー他の女性キャラと異なり、ドレス姿でも絶対にリボンを纏わない
② 少女マンガの中で、内面的な男らしさ・女らしさはどう定義されてきた?
● 天使長のセリフ
「男の子にはたくましさと勇気を 女の子にはしとやかさとやさしさを」
● 少女クラブへの投書欄
「私も男の子の姿をしたい!」→掲載せず
「男装の主人公を女の子にしてあげてね」→編集部から同意の文言
● なかよし掲載時の煽り文
「やさしく美しい女の子になれるのは果たしていつの日でしょうか?」
■ 続編『双子の騎士』時代(1958-59)
『リボンの騎士』において、男装の少女は知的交渉の場面を担当しない。
しかし『双子の騎士』では男装の少女が智略を尽くして敵を倒すシーンがある。
☆ 参加者からの情報
テレビアニメ版の『リボンの騎士』では主人公がとても男性的(当時の価値観でいうやさしくしとやかな要素の強調された女性ではない)に演出されている。
それは放映のパイロット版(試写版)で原作通り女性らしさの強調された主人公が子供たちにあまりウケず、男らしい方がウケたからだという。
● 父親がオスカルの本をはたき落とすシーン
「人間であればこそ すぐれた書物を 読みたいとねがうのは
とうぜんでございます」
→ 女性は政治や知を担当しなくていい、という規範に対抗するオスカルの様子
+α
このシーンにおいて、この台詞とともに、先述した「男女入り混じった特徴的な目」がクローズアップして描かれている。
→ 知性を持つ女性の表象記号として作用?
● 死ぬ間際に自身の人生を振り返るオスカル
「自己の真実のみにしたがい一瞬たりとも悔いなくあたえられた生をいきた
人間としてそれ以上のよろこびがあるだろうか」
▶︎ オスカルの目指した自身の理想の完成形は、男でも女でも軍神でもなく
「人間」である
● ウテナの成長の変遷
王子になりたい自我 + 女性である身体
↓
自身の女性的身体および内面への違和
↓
世界や女性性(アンシーのことなど)をちゃんと知りたいという知的欲求の芽生え
↓
「男でも女でも気高さを失わない人間」を内面化
▶︎ オスカルと同じく「人間」を理想形とする
③ 結局男装の少女とか中性的なキャラってなんなの?
会長的理解 :
⇨ 男装の少女の良さとは、身体的性別を越境して「人間であること」を目指す存在と捉えられるところにある??
参加者の意見 :
● 男装の少女サファイヤには女の子でいて欲しい。
● 男装の少女って気高さを求められてない?何故??気高くなきゃいけないの??
→単に男装の少女と「戦闘(騎士)」がセットで騎士が気高いからでは?
→手塚作品初期あたりの男装の少女は別に気高くはなくない…?
● 宝塚の良さはどこに?
▶︎ 男役が女役を演じた時の萌え、女性の男装によるBLという性別越境により引き起こされるわけのわからない感情(だがとても良いものだと思う気持ち)、など
→ 性別の線引きをグラグラ揺らされることの快感では??
▶︎ 演技だけじゃない。役者のリアルも好き
→ 能や歌舞伎や俳優、ジャニーズのように子役時代から見守ってファンが育てる文化がある??
演技中の役者のみでなく、舞台を降りたときの役者自身まで含めて気持ちを向けるという独特の文化??
● オスカルになりたい?問題
▶︎ オスカルは憧れの存在。だが、自分と地続きの存在として憧れるのか王子様として憧れるのかという違いがある気がする。
オスカルは凄すぎるから地続きの存在として憧れるのは難しそうだけれど皆はどう思うか?
→ 参加者のうち「なりたい」と回答した男性はゼロ。女性4名が挙手。参加者の男女比率は半々(全12名 / オフライン参加含む)
④ 社会的背景をちょっとだけまとめ
1910以降~ 核家族化、専業主婦化 — 教育が主婦の重要な務めに
1950-80年代 悪書追放運動(鉄腕アトムの焚書など)
1953-56 『リボンの騎士』少女クラブ版
1958-59 『双子の騎士』
1972-73 『ベルサイユのばら』
1955-73 高度経済成長期
1991-93 バブル崩壊
1996-98 『少女革命ウテナ』
☆参加者の意見
● リボンの騎士編集部が「サファイヤのようになりたい」意見を黙殺した背景には、経済発展してはじめて子の教育者という重要な役割を与えられた当時の専業主婦たちによる過敏な反応がある
● ベルばら当時は日本が豊かになっている時代で、歴史にしか悲劇を見いだせなかったのでは?
● 一方で90年代のウテナの時代はバブルが崩壊したり、教育への投資がGDPに影響しなくなったりといった社会変化があった。ウテナ時代は女性も男性と同じ土壌で活動「しなくてはならなかった」という背景があるのでは?
<その他編>
■ 男装の女性が登場する作品・歴史人物
(座談会で参加者が話題にあげた作品・人物の中から課題図書で触れられていない作品・人物のみ記載)
● 映画『恋に落ちたシェークスピア』
演劇の舞台に男性しかあがれなかった時代を描く
男装してみごと役を演じきる女性ヴァイオラと劇作家シェイクスピアの関係を主題とする
● 漫画『BASARA』田村由美(1990-1998)
少女漫画でありながら荒廃した世界での架空戦記を描く
双子の妹が髪を切って立ち上がり、男に成り代わって指揮
兄と妹の両面性を利用しつつ戦っていく
● 漫画『イノサン』
フランス革命下における死刑執行人の兄妹を描いた漫画
男装でこそないものの男言葉で兄よりも胆力を持ち、自由を希求する妹・マリー=ジョセフ・サンソンが大きな役割を果たす
● 歴史人物 川島芳子
清朝の王女であり、男装の麗人としてスパイ活動を行った戦後日本の人物
● 歴史人物 ジョルジュ・サンド
ショパンやリストとも交流のあった19世紀の作家。男装によって活躍の自由を得た? 生活費が足りず男装を始めた? 何にせよ男装し活躍した麗人として有名な女性
● 歴史人物 ジャンヌ・ダルク
史料が当時にかなり破棄されているのでは、どこまでが史実なのか、本当にジャンヌの意思だったのか(政治利用されたのでは)など諸説飛び交うが、男装していたのは恐らく本当だろうと言われる(全く専門外なので断定を避け語尾を濁しまくっています)
■ 少女マンガに、マジで粗野で汚くて取り柄のない人間は描かれないよね という話題
→描く必要ないからでは?
→描いてる作品はないの?
▶︎ 少女マンガではないが……
などでは描かれている
(勿論文学作品や映画、少女マンガ以外のマンガなどに視野を広げればいくらでも存在する)
<おわりに>
ひとこと
たのしかったです! またやりたい!
★ 今回「超概要」にまとめた内容は、『少女マンガジェンダー表象論 <男装の少女>の造形とアイデンティティ』押山美知子・著 のほんの一部でしかありません。
図書のなかでは手塚治の他の作品や『リボンの騎士』からベルばらまでの変遷、萩尾望都や池田理代子の様々な作品や宝塚、ウテナ以降の現代の作品についてもまとめられています。
興味のある方はぜひこんなブログなんかではなく本物の書籍のほうをお手に取ってみてください。